氏名:久世 日向子 (くぜ ひなこ) 旧姓:暁美 (あけみ) P.N:小江 陽向子 (おのえ ひなこ)

性別:女 年齢:48 生日:5月15日 体格:156cm/50kg 職業:専業作家 担当:


作品ジャンル

ホームドラマ/エッセイ/劇脚本など

「蒲公英の庭」

葵は、家庭の中で孤独だった。遠方から嫁いだ先の夫は女癖が悪く、姑は無口な葵に何かと当たる。友人はなく、慰めになるものもない葵にとって、自由とは、姑が外出している間、居間の窓辺から裏手の庭を眺めるわずかなひと時だけだった。庭は、春と秋に蒲公英が咲く。葵にはこれが黄色の絨毯に見える。────ほんの少しの勇気があれば、葵はその庭に飛び出していくだろう。子どもに立ち返った葵の心を、蒲公英はどこまでも遠くへ、連れ去って行ってくれるだろう、自分に勇気が、わずかな勇気さえあれば────。 小江陽向子のデビュー作。閉塞した家の中、静かに追い詰められていく女・葵の目に映る夢現曖昧な景色を、蒲公英の色彩に乗せて描いた作品。

「ポプリと寝室」

小江陽向子の描くエッセイ。父・小江刻橙と暮らした幼少期の懐古から、二児を育てた母としての慌ただしい生活、夫が作るラベンダーのポプリを置いた寝室の風景。「平凡なつもりの人生」の一片を、鋭くも優しく切り取った連作。

「廃園」

知らないふりをしていろ。でなければ、私はこの家の異物になる──── 七歳で父と死に別れてから、千秋の我が家は地獄になった。いつでも優しい母、穏やかな伯父、父がいなくなってから荒れてしまった庭。母は狭い寝室で伯父と通じている。千秋はドアの隙間からすべてを眺めている。しかし、知らないふりをしなければならない。ふたりにとって無害なままでいなければ、千秋の居場所はどこにもなくなるのだ。どこにも行けなくなったとき、千秋は何もない庭に逃げる。そこは違いなく廃園だが、誰にも邪魔されない千秋の聖域だった。 家庭に孤立する少女の懊悩を、精細なリアリティで描いた一作。作者の直接の言及はないが、主人公・千秋と小江陽向子の生い立ちは酷似しており、ノンフィクションをベースとする見解が有力である。

<aside> <img src="/icons/chat_gray.svg" alt="/icons/chat_gray.svg" width="40px" />

「でも幸せよ、千秋は。逃げ場があるでしょう?」 「現実は、こんなものじゃない。もっと迂遠で、辛辣で、誰も私を離してくれなかった」

</aside>


取材に出た旅先、海をのぞむ崖から転落し、首の骨を折って死亡した────とされる。

事故か自殺か、どちらであったかは不明である。その時を見たものはなく、彼女が転落したことにも、誰も気づきはしなかった。翌々日、たまたま崖下を覗き込んだ観光客によって発見される。

小江陽向子は旅先に必ず、父の形見の古いトランクを持ち歩いた。トランクはホテルに残されていたが、中身は家族への土産ばかりだった。

<aside> <img src="/icons/pencil_gray.svg" alt="/icons/pencil_gray.svg" width="40px" /> 私は、母として、妻として、娘として、何もかも落第の人間だ。 家族は愛しい。何よりも。愛しい人たちの隣で幸せになることに、私はきっと耐えられない。

</aside>


人物

笑わない女。身なりをさして気遣わず、身内に愛想なく、皮肉屋で神経質。 数年前に死去した作家・小江刻橙の一人娘。学生時代に文筆を志し、■■年に雑誌「■■」掲載の「蒲公英の庭」でデビュー。「カメラ的」精彩な筆致を得意とし、喜悲交々の生々しい人間劇を描く。 4歳下の夫との間に1男1女がある。そろそろ手が離れる年齢であるといい、近年はますます精力的な仕事ぶりが目立つ。

家庭というものに対し、常に鬱屈を抱えて生きてきた。敬愛する父には憎さ悲しさが少なからずつきまとい、母の代わりに面倒を見てくれた伯父には、ひどい言葉をたくさんかけた。自分で選んだ可愛い夫、腹を痛めて生んだ子にも、こんな人間が妻であり、母であることが申し訳ない。

きっかけは、2歳の時に母が事故死したこと。自分ではどうにもならないことだった。

<aside> <img src="/icons/pencil_gray.svg" alt="/icons/pencil_gray.svg" width="40px" /> ”列車の脱線事故で亡くなった母の顔は、写真でしか知らない。私に瓜二つだと思う。父の言うには、太陽のような人だったそうだ。陽が早々に落ちて、私たち家族のもとに、明けることのない夜が来た。”

</aside>

<aside> <img src="/icons/pencil_gray.svg" alt="/icons/pencil_gray.svg" width="40px" /> ”母を失った父は、みるみるうちに憔悴した。幼い私にはどうすることもできず、心配ぶりの伯父に面倒を何もかも任せた。父の様子を、伯父は何くれとなく気にかけて、時に本来は母に求められるはずの言葉をかけた。時間をかけて父は恢復した。その間、私にできることはやはりなかった。”

</aside>